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2013年12月29日

第5回 昭和27年春 苺の思い出(1)

第5回 昭和27年春 苺の思い出(1)
私は、無事幼稚園を卒業して、小学校に行くことになりました。
入学式には父が参加してくれました。
母は、まだ小学校には、遠くて疲れるので行けません。
間もなく給食が始まり、みんな嬉そうです。
母は食事の準備はできるようになりましたが、疲れるので、まだ私達と一緒に食事しないで休憩します。
私が家の外で遊ぶのを、母が喜こぶよう感じます。
おばあちゃんが、時々疲れるのか昼寝をするようになったので、賑やかな私が家の中にいると、気を使うようです。
暖かいある日、学校帰りに近所の瞳ちゃんと、遊ぶ約束をしました。
瞳ちゃんは年長組の時、切戸川のそばに引越して着たので、親しくなったのです。
瞳ちゃんの家の裏の約束した小川に着くと、少し冷たい水の中で、ちっちゃなめだかが、すーすーすーと動いているのが目に入ります。
小川とあぜ道の向うに、お百姓さんの畑が続いていて、苺が植えてあります。
薄い黄緑と薄桃色で、まだ熟れていません。
ところが、あぜ道に発見した1株の苺の実は、小さいけれど赤く熟れています。
「ワー、おいしそう!神さまからのプレゼント!」と、2人共思わず声が出て、1粒指で摘まんで、口に入れました。
「ウワァー。あまーい!」苺とお日さまの味がします。
もう1粒づつ食べたらお終いです。
小さな苺は、4粒しか無かったのです。
突然、「コラー。苺どろぼうー!」という声がします。
ドキッとして声の方を見ると、瞳ちゃんのお兄ちゃんが、家の窓から手招きしています。
2人で罰の悪い顔をして、お兄ちゃんの所へ行きました。
「苺を取ったらだめじゃー。」とお兄ちゃん。
「はい。あぜ道にあったから。」と2人が小さい声で言いました。
「これからは、もう取らんな。」
「はい。取りません。」
「よし、もう取らんのなら、今日のことは、誰にも言わんことにする。」
「もう取りません。」と、2人はもう一度、はっきり言いました。
翌日、私は学校から帰って、瞳ちゃんの家に遊びに行きました。
「こんにちはー。」と挨拶すると、運悪くお兄ちゃんがいます。
「いらっしゃい。苺どろぼうさん。」だって。
いやだなーと思いつつ2人で遊んでいると、「どうぞ。」と、お兄ちゃんがピーナツを持って来てくれました。
なんだか変な気分です。
数日後遊びに行った時、お兄ちゃんが留守で、ああよかったと胸を撫で下ろしました。
しばらくすると「宿題したか? 苺どろぼうちゃん。」と、お兄ちゃんが中学校から帰って来て、声を掛けます。
遊んで帰る時、「苺どろぼうちゃん。また遊びに来いよ。」とお兄ちゃん。
田植えの前に苺が抜かれ、「苺どろぼう。」が、聞かれなくなりホッとしました。
私達は、あぜ道の苺でも、お百姓さんに断りなく、決して取らないことに決めました。



Posted by トンコおばあちゃん at 20:00│Comments(0)
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