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2014年03月04日

第33回 昭和31年秋 それぞれ違う

第33回 昭和31年秋 それぞれ違う
5年生の秋、「明日、国語と算数の学力テストがありますから、復習をしてきて下さい。」と先生が言いました。
全国の小学生の学力を調べるテストに、私達の小学校が選ばれて、5年生と6年生が受けることになったのです。
私は夕飯の後に思い出して、家族みんなにそのことを伝えました。
「ふーん、そう。」と言っただけで、みんなは父の部屋(表の茶の間)で、ラジオを聞き始めました。
花菱アチャコの「お父さんはおひとよし」の番組が始まったので、もう笑い出しています。
私だけが奥の子ども部屋に行き、国語の教科書を開きました。
みんなが大声で笑うので、どうして私だけが復習をしなくちゃいけないのと、うらやましく悲しくなって、目に涙がたまります。
教科書の字が見えないので、復習はやめて、寝床に入って、ラジオを聴こうとしました。
アチャコの「むちゃくちゃでござりまするがなー。」だけは聞こえますが、他はよく聞こえません。
目が涙でぬれていて恥ずかしいので、今さらみんなのところへ行けません。
学力テストのことを言わなきゃよかったと思い、泣き声が出てしまいそうです。
しかし夜に泣くと、つぎの朝、目が腫れて変な顔になった事があるので、我慢しました。
おもしろいラジオが聞けないので、つまらない夜ですが、あきらめて寝ることにしました。
つぎの日の学力テストは、習ったことだけで難しくありませんでした。
しばらくして、先生が90点以上の人に「よくがんばりました。」という小さな賞状を配りました。
驚いたことに私も、算数が90点で賞状をもらいました。
それまで、一番いい点は85点だったので、90点は初めてです。
「100点とったら、おこづかいを100円もらえるんよ。」と誰かが言いました。
「100点じゃあないけど、賞状をもろうたから、おこづかいを貰えるかも知れん。」と友達が言います。
私も家に帰って、話してみることにしました。
友達の中には毎日おやつ代として、5円か10円のおこづかいを貰っている子が多いのです。
我家は学用品を買うために、1ヶ月300円貰って、こづかい帳をつけています。
不足の時は、父がこづかい帳を見て、必要な額をくれます。
おやつを買うお金は貰えず、おやつは母が用意してくれます。
たまには、みんなと一緒におやつを買って食べたいので、もっとおこづかいを欲しいのです。
家に帰って、まず父に小さな賞状を見せました。
すると、「テストは先生の教えたことが、生徒に伝わっているか調べるためのもんじゃ。点が悪い時や分かっていない生徒に、先生が工夫して教えることが大切なんじゃ。」と父が言いました。
つぎに台所に行って、母に賞状を見せて「100点取った友達は、おこづかい100円貰えるんじゃぁって。」と話すと、「テストについて、家によって考えが違うんよ。」
「学力テストはどの位力がついているか、調べるためのもんよ。わざわざ前の日に復習しなくても、ええと思っちょったんよ。」と母。
我家ではテストが100点でも、こづかいが貰えないようです。
「散髪屋さんには、散髪屋さんの暮らしがあって月曜日がお休みよ。」
「うちはラムネの製造がない日と日曜が休みだから、お父さんはその日は遅くまで寝ているんよ。」
「お父さんは、他の家と違っていてええという考えなんよ。」と母が言いました。
母はいつも朝7時に起きますが、日曜日だけは遅くまで寝ています。
母の言い訳のように聞こえましたが、私は母が日曜くらいゆっくり寝ていて欲しいと思います。
病気にならないよう願っているからです。
私もみんな同じにできないのだから、違っていてよいのだと思います。
この前、校庭にいる先生を指差して「あの先生は、自分の組の生徒の家庭教師をしているんじゃって。」と友達が話ました。
「通知表の点が1や2で授業の分からない生徒の家に、教えに行っちょるの? ええ先生じゃね。」と私は言いました。
「ちがうよ! お金持ちが、お金を払って家庭教師に来てもらっちょるんよ。テストの点がようなって、通知表が5になるためによ。」と友達。
私には訳がわかりませんでした。
ずっと前の3年生の時、算数がよく分らない友達がいました。
4年生になる前に、3年生の算数がわかるまで、先生が教えてくれるといいと思いました。
しかし、そのことを話す雰囲気では、ありませんでした。
5年生では、みんなが分るまで、教え合えるといいなと思います。
だいぶ前、「テストの点で人間の価値が決まるのではない。えらい仕事をしている人が偉いのだ。」と、父が言ったのを、思い出しました。
この辺りでは、きつくて辛い仕事を、えらい仕事と言います。
また、仕事で疲れた時「えらいなあ。」「あー、えらかった。」とも言います。
しっかり働く人を誉めて、感謝する言葉でもあり、自分を労う言葉だとも思いますし、ステキな言葉だと思います。




Posted by トンコおばあちゃん at 10:48│Comments(0)
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