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2014年03月28日

第42回 昭和32年梅雨 失敗は成功の元

第42回 昭和32年梅雨 失敗は成功の元
6年生の6月初め、理科の時間に磁石とコイルと電池を使って、モーターを作ることになりました。
教科書に書いてある通りに、みんな頑張っています。
「みんな出来上がりましたか?」と担任の先生が、みんなを見回りながら聞きました。
「はーい。」とみんな。
「さあ、電流を流しましょう。スイッチを入れて下さい。」と先生。
「まわったー。まわったー。」「ヤッター。まわったー。」と歓声が上がりました。
そそっかしい私は、珍しく成功ですが、10人くらいの人が静かです。
「失敗は成功の元ですよ。どこか間違っていないか、調べましょう。」と先生。
「磁石が直角に重なっていますか?」
「コイルの巻き方はあっていますか?」
「電池の入れ方は?」と先生が聞くたびに、「間違っちょるわー。」など聞こえます。
授業が終わる頃に、みんな成功してモーターは回りました。
「失敗をしたからこそ、大切なところが分かり、気をつけたので成功したのです。一度で成功した人より、失敗した人のほうが勉強になったと思います。」
「これからは失敗した時は、『失敗は成功の元』を思い出して、また取り組んで下さいね。」と先生。
私は本当にその通りと思いました。
私の失敗は生まれた時からです。
予定日より早すぎて、産婆さんが来る前に産まれてしまいました。
弟が産まれた時、私は2才半でしたが、産湯のやかんを蹴飛ばして大火傷をしました。
4才の時は新しい下駄を履く時、あわてて足の親指の爪をはな緒にひっかけて爪が取れたり、他のことでも失敗だらけです。
その度にみなさんにお世話になって、助けて貰いました。
これからは、失敗のまま終らないで、成功するようにしなければと思います。
次の日の習字の時間のことです。
となりの男子が筆を持って立ちました。
「おっとっとっと。」と言って倒れそうになり、筆が私の手の甲にさわり、手が黒くなってしまいました。
「ごめんな。」と言いましたが、私にはわざとしたように思えます。
しばらくして、新しい半紙を出して下敷きの上に置いて文鎮を置きました。
今度は前の男子がまた筆を持って立ちました。
椅子を動かす時、筆が私の半紙の上に落ちて汚れました。
「ごめんな。」と言いますが、わざとに決まっています。
私は、仕返しをしたくなりました。
墨をすりながら考えました。
「そうだ、いい考えが浮かんだわ。」と軟らかくするために水をつけた筆で、前の男子の首筋をすうっと触りました。
前の男子は「ひや―。」と声をあげました。
先生と目が会いました。
先生が見ていたのです。
「女子が男子にいたずら書きするなんて。前代未聞だわ。」と先生。
私は「しまった!」と、体が固まってしまいました。
みんなが後を見ました。
みんなには私がいたずらしたことが、わかったかも知れませんが、そのことは気になりません。
先生に不真面目と思われたようで、それがショックです。
「アーア!大失敗!」です。
「失敗は成功の元」と昨日聞いたところですが、この大失敗は取り返しがつかないように思えて、私は珍しく悩むことになり、無口になりました。
家に帰っても、しゃべりません。
早く布団に入って天井を見つめて、どうしたら名誉挽回できるか考えていました。
姉が気が付いて、私のことを考えてくれたようです。
「あのね、オキシフルで拭いたら、毛の色が薄くなって毛深いのが目立たなくなるんじゃって。」と教えてくれたのです。
「ほんと! やってみる!」と私。
私の以前からの悩みの解決法です。
だいぶ前、学校で転んで保健室に行った時、「赤チンは目立って恥ずかしいから、色の無い消毒液があったらええのにな!」と先生に言いました。
「オキシフルにしましょう。」と言って先生が消毒してくれたのです。
白い泡が出てとてもしゅみますが、まったく目立ちません。
その日、私は学校から帰って、すぐにオキシフルのことを父に話しました。
父は「そうか。」と言って、早速近くの薬局に行って、珍しい消毒液だと試しに買って来てくれたのです。
私が転んで膝をすりむいた時、1回使っただけなので、まだたくさん残っています。
今日の大失敗の悩みはすっかり忘れて、腕や脚の毛の色が薄くなるのを夢見て眠りにつきました。
次の日、さっそくオキシフルをガーゼのハンカチに付けて、腕や脚を拭いてみました。
少し冷っとしますが、腕や脚の毛の色が、少しだけ薄くなった気がします。
姉が「何回か付けるといいらしいよ。」と教えてくれたので、明日もまたオキシフルを腕や脚に塗ることにしました。



Posted by トンコおばあちゃん at 14:15│Comments(0)
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