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2014年05月25日

第60回 昭和34年秋 母とのおしゃべり(2)

第60回 昭和34年秋 母とのおしゃべり(2)
中学2年の秋、次のアイロン掛けの手伝いの時も、父は留守だった。
「としちゃんが生まれた時、仮死状態でもうだめかと思うたけど、生きちょったんよ。戦争が終って、食糧事情がもっと悪くなったの。おっぱいは出んし、牛乳もなかなか手に入らんから、としちゃんは栄養失調で、やせ細っちょったんよ。」
「0才の時、時々米国の偵察機の激しい音がすると、としちゃんは手足をピクピク動かして、安眠できんかったんよ。お腹の中にいた時も生まれた後も、睡眠不足栄養不足じゃったんよ。」
「今は運動してふっくらしてきたけど、体が丈夫な方ではないんよ。身の丈に合った暮らしをするのがええよ。」
「勉強しすぎたり運動しすぎて、体を壊しちゃあダメよ。」と母。
私は、6時間目の授業中、頭が疲れてくる。
授業が終わって、運動や遊びで気分転換しても、帰宅後少しか集中できないから、勉強のしすぎは無いと思う。
しかし、運動や遊ぶ事はすきだから、授業が終って海や山に行き、体が疲れることがあるので要注意だ。
この夏は、バレー部の部活だけでなく、川や海で遊んだので、体重が2キロ減り、ウエストのところでスカートがクルクル回る。
「2キロ夏痩せしても、夕飯の時、ごはんを3杯も食べるからすぐ元に戻るよ。」と母は心配しつつ笑い声だ。
次に、「結婚相手は、長男だと家業を継いだり、親との同居や世話が大変だから、無理と思うよ。」と母が言う。
今から、娘達の結婚の事を心配している。
父は末っ子だが長男に代わり家業を継ぎ、両親と同居で、母は苦労し大変だったようだ
私達姉妹には、長男の嫁になるのはとても無理で、次男と結婚させるのが、母の責任と考えているのだ。
「お父さんは(私の父)、おばあちゃんが年を取って生まれたの。商売が忙しゅうて、小学校に行けん女の子に世話をして貰ろうちょったんよ。」(父の育った大正時代は、小学校に通えない子どもがいたそうだ)
「自分から物事を頼むことなく、我がまま気ままに育ったんよ。無口なほうで、人付き合いがうまく出来んのよ。」と困った顔の母。
父は友達2・3人とだけ付き合い、一番無口らしい。
私の友達が我家に来て、「こんにちわ。」と挨拶しても、父は「オ。」とか「ヤ。」とか一語のことが多い。
おしゃべりが少ない子どものことを、「生まれつき無口。」「おとなしい性格。」と大人達が言うのを聞いた事がある。
父は、生まれつき無口で人付き合いが嫌いな性格で、自分から話さなくてもよい環境で育ったのだと思った。
最近、母は「父との暮らしが、大変。」と言いつつ、回りの人の仕立て物をして小遣いが入り、好きな布地を買えるようになったので、笑顔の時がある。
だから、相手が自分に好きな事をさせてくれる人なら、結婚は良いことと思い、娘に結婚を勧めるのだろう。
私は、父と母の様子や、近所のおばさん達の愚痴を聞いていると、結婚生活はとても大変そうに感じる。
男子に好かれていない私は、結婚相手は見つからないだろうと思うし、家事は下手だから結婚したいと思わなかった。
「としちゃんが1才の頃、私は胸が痛く苦しゅうなったんよ。近くの病院で診てもろうて薬を飲んだんよ。少し痛みが残っちょったけど、周りに気を使こうて完全に治るまで休まんかったんが、いけんかったんよ。」と母が話す。
その後、弟を出産して、また肺が苦しくなり肺浸潤と診断されて、療養する事になったのだ。
「疲れてえろうなったり苦しゅうなったら、まず休む事が大事よ。片付けが残っていても、先に休んでから働くほうがええよ。その方がはかどるんよ。」
「そうしたから、病気が治ったと思うんよ。無理をしたら、かえって皆に苦労をかけることになるんよ。」と自分にも言い聞かせるように話した。
母が、戦争中に子どもの出産や子育てし、病気して大変苦労した事が伺えた。
私も、遊びすぎや運動しすぎで疲れた時、片付けたり手伝いや宿題をしようものなら、失敗をしてしまうので、疲れたときは休むに限るという事に納得した。
また、洋裁学校の時の同級生が、母子家庭になり、洋裁の仕事をして自立している話もした。
母ももっと元気なら、洋裁の仕事をしたいのだろう。
私は、結婚しないで、自分が出来る仕事に就いて自立するのがいいと思うが、それも難しいことと感じる。
「それからね、玉の輿に乗って結婚したい人がおるけど、反対よ。」
「分相応に暮らすのが一番と思うんよ。生まれ育った家と同じ様な暮らし方をしている家の人と結婚すると、不要な苦労が少なくて済むと思うんよ。」と母。
母は、あくまで娘の分相応の家の次男との結婚を、望んでいるようだ。



Posted by トンコおばあちゃん at 11:52│Comments(0)
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